メッセージ(バックナンバー)
 大磯の旧吉田茂邸で、七賢堂の例祭があり、参列しました。
 舅(小川優・ジャパンタイムス元編集長)は、戦後吉田茂さんの通訳をしており、吉田国際基金の理事をつとめておりました。
 毎年の例祭には、舅、姑が参列しておりましたが、今年は、私も、以前から国会で吉田茂邸の保存運動をする議員連盟で働いていた関係から出席することとなりました。
 大磯の西小磯にある吉田邸に吉田茂元総理は昭和42年89才で亡くなるまで住んでおられました。
 サンフランシスコ講和条約、日米安全保障条約の調印など大きな仕事をなされ、通算の在任期間は佐藤栄作総理に次ぐ2616日間でした。私の父は私が生まれた頃は吉田茂内閣の国会記者をしておりました。
 “ワンマンな首相で大変だったけれど、吉田内閣が終わって1週間もすると政治部記者は、大きな総理だったと、皆その力と器をなつかしんだよ”と言っておりました。
 柿の実や萩の花の美しいお庭、落ち着いた美しさに満ちた家、竹林に囲まれた奥庭の小高い丘に七賢堂があり、喜びと苦難の歴史を見つめているかのようです。
 七賢堂とは岩倉具視、木戸孝允、大久保利通、三条実美、伊藤博文、西園寺公望、吉田茂をお祀りしています。岩倉さま、三条さま、大久保さまのご子孫もご参列で、なごやかに思い出話をなさっておられました。
 麻生総理が国会での所信表明演説で就任にあたり
 「わたくし麻生太郎、この度、国権の最高機関による指名、かしこくも、御名御璽をいただき、第九二代内閣総理大臣に就任いたしました。
 わたしの前に、五八人の総理が列しておいでです。一一八年になんなんとする、憲政の大河があります。新総理の任命を、憲法上の手続にのっとって続けてきた、統治の伝統があり、日本人の、苦難と幸福、哀しみと喜び、あたかもあざなえる縄の如き、連綿たる集積があるのであります。
 その末端に連なる今この時、わたしは、担わんとする責任の重さに、うたた厳粛たらざるを得ません。
 この言葉よ、届けと念じます。ともすれば、元気を失いがちなお年寄り、若者、いや全国民の皆さん方のもとに。
 申し上げます。日本は、強くあらねばなりません。強い日本とは、難局に臨んで動じず、むしろこれを好機として、一層の飛躍を成し遂げる国であります。
 日本は、明るくなければなりません。幕末、我が国を訪れた外国人という外国人が、驚嘆とともに書きつけた記録の数々を通じて、わたしども日本人とは、決して豊かでないにもかかわらず、実によく笑い、微笑む国民だったことを知っています。この性質は、今に脈々受け継がれているはずであります。蘇らせなくてはなりません。
 日本国と日本国民の行く末に、平和と安全を。人々の暮らしに、落ち着きと希望を。そして子どもたちの未来に、夢を。わたしは、これらをもたらし、盤石のものとすることに本務があると深く肝に銘じ、内閣総理大臣の職務に、一身をなげうって邁進する所存であります。」と述べられた声、表情を大磯の秋の青空を見上げながら、思い起こしました。
 また、麻生総理は9月25日、ニューヨークでの国連総会での演説で
 「この度ニューヨークを訪れて、私はバンカー(銀行家)について昔聞いた話を思い出しました。バンカーには、いつも2種類しかいないそうです。少ししか記憶できないバンカーと、まったく何も記憶できないバンカーと――。
 金融に、マニアとパニックが相伴うこと、形あるものに、影の従う如くであります。一定の間隔を置いて、マニアは必ず胚胎し、パニックを招来します。
 今から10年前のちょうど9月、世界は一度、流動性を突如失う悪夢を見たはずでした。この四半世紀余り、東京はもとより多くの国、市場を舞台としながら、マニアとパニックは数年おきに、あたかも終わりのないロンドを奏でてきたかに見えます。
 この度の熱狂において、東京は比較的素面でありました。が、これとても、1980年代から90年代にかけしたたかあおった酒の宿酔(ふつかよい・a hangover)が過剰債務(a debt overhang)となり、これに苦しむこと、あまりの長きにわたったゆえだったに過ぎぬと言っていいでありましょう。
 まこと、ロンドに終わりはなく、人類は、遠からず同じ旋律を聞くに違いあるまいと思います。そのたび1インチであれ前進し、賢明になろうとするほか、対処の方法はありません。
 国際金融の仕組み(アーキテクチャー)を巡る侃々諤々(かんかんがくがく)が、いま一度始まるものと思います。日本として、持てる経験と、知識の貢献に心がけたいものであります。
 と冒頭に述べられスピーチなさいました。
 ご自分の言葉で、鋭い鳥の眼と虫の眼とを持ち歴史感覚を表現しながら語りかけられる麻生節の全容をマスコミが十分に報道しないのは、もったいない気がいたします。

平成20年10月19日 山谷えり子

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