「フランス敗れたり」(アンドレ・モーロワ著、ウェッジ社)を読みました。アンドレ・モーロワは第一次世界大戦の時、英国軍との連絡将校を務めた評論家、歴史家ですが、本は第二次世界大戦の緒戦でフランスがドイツ軍にアっという間に破れ、1940年6月18日パリ陥落で国家が崩壊した時のことを記したものです。 |
日本でも日米開戦を数ヶ月後に控えた昭和16年2月には200版を重ねた大ベストセラーとなったものの復刊です。モーロワはドイツ、ヒトラーへの敵意とファシズムへの怒りを書いていますが、この本が日本で出版された頃は日独伊三国軍事同盟が締結されたばかり。そのような時に日本人がこの本を夢中で読んだというのは、不思議な情景にみえます。 |
本のはじまりは、1935年12月にチャーチルと英国でランチをとったモーロワが「女の愛だの、男の野心だの、そんなことについて論じている時代じゃない」「君の祖国フランスは、ドイツ空軍のゆえに滅亡するかも知れないんだ。文化だの文学だのは、それは確かにいいものには相違ないが、しかし、モーロワ君、力を伴わない文化は、明日にでも死滅する文化となってしまうんだからね…」「フランスの空軍はかつては世界第一位であったが、今日では第四位か五位に転落している。ところがドイツの空軍は今日では世界第一位に迫ろうとしている。君はこの事実を毎日書くんだ…」と、チャーチルに言われるところから始まります。 |
当時のフランスはドイツよりはるかに大きな経済力、政治力のある国でした。しかし、フランスは国内の政局、第一次大戦後のマスコミ、インテリ、労働者、学生たちのマルクス主義への憧れ、国際連盟さえあれば地上から戦争はなくなるという幻想にとりつかれていたのです。ヒトラーが政権をとっても、正確な情報をとろうとせず、希望的観測にしがみついたフランスをモーロワは反省をこめて記します。 |
モーロワは「お説教の一斉射撃は大砲を圧倒するだろう」というフランスをおおう気分の中で、平和至上主義の弱点や社会主義の理想が結果として外国の利益となったことを分析し、フランスは、国民道徳をしっかりさせ、国の統一を守り、外国の政治の影響から世論を守ることに必死となるべきだったと嘆きます。 |
国内でイデオロギーの対立、意見の違いで相手をやりこめようとする対立の中で、結局行動がとれなくなってしまったことへの反省の総括は、昨今の日本にとっても痛烈なコメントのように感じました。 |
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平成17年7月24日 山谷えり子 |