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解答乱麻「本を読もう、飲み込もう」
平成16年1月26日
 
 休日、太宰治の「津軽」を高校生の娘と交互に朗読し終えたとき、娘は「なんかいいね。こういう風景、人間関係」と、ほんわり笑って本を閉じた。初釜の席で旧友は「思えばあのころが人生の華だったのかしら」と、地域で紙芝居や読み聞かせの会をしながら一緒に子育てを楽しんだ日々を懐かしんだ。
 本は大概一人で読むものだが、子供とともに声を出しながら読めば、それは音と体のスキンシップであり、ことさら甘美なものである。
 脳科学では三歳までに脳の発達がほぼ完了するというし、国語教育の視点からは音読による感性情緒が特に育つのも幼少期という。今回の十九歳、二十歳の芥川賞受賞作家はどんな育ち方をしたのだろう。OECDの調査によれば三十二カ国中、日本の生徒は趣味として読書をしない割合が最も高く、家にある本の数が「十冊以下」と答えた子供が一割ある。世界第二位の経済大国は子供の読書最貧国なのである。
 NHK教育テレビの幼児向け番組「にほんごであそぼ」は、源氏物語や歌舞伎やら文語文などをポンポン入れた番組を放映して人気がある。だが、小学校の国語となると、朗読は学習指導要領になく、使う漢字が強く制限されているため、レベルの低い文章が載る傾向にある。文化審議会が小学生の教科書で「成長」を「せい長」とするなどの交ぜ書きをやめてルビを活用する国語力向上案を提言したが、早く実現してほしい。
 昭和十年代から二十年代にかけての国語の教科書を調べたことがある。品格ある文章、情操心の育成、生き方を考えさせる教材が工夫して選ばれていることが感じられた。授業時間数も現在の三倍近くあった。
 難破した船で若い女性が朗々と「他人のために言葉を持て、唇に歌を持て、勇気を失うな、心に太陽を」と寒さの中で人を励まし救う話や、お釈迦様から汚い言葉を使ってはいけないと教えられたハンタカが、教えを守って高い精神の境地に至ったなど、勇気や献身、従順などの話がちりばめられていた。
 国語教育から、こうした生き方を伝える教材が減るのは昭和三十年代からだ。昨今は図書館でも伝記コーナーは貧弱になるばかりである。個性と多様性を大切にという現代にあって、生き方のモデルや偉人伝などは差別撤廃教育や人権教育になじまないと主張する教育関係者もおられるが、面妖なことである。伝記は成功の陰の失敗や忍耐、工夫、生きる気概や目的、時に悲しみやもののあわれを伝える。生き方を考えさせる教材はもっと増えていいと思う。
 公立小中学校の学校図書を充実させるため、国は平成十八年度まで毎年百三十億円を地方交付税措置している。小学校で一学級あたり約二万四千円、中学校で約四万七千円分買える額だが、標準冊数を満たしている学校はまだ三割ほどである。
 「本を味わおう、飲み込もう、噛もう、消化しよう」とは哲学者のベーコンの言葉だ。大人は噛み応えのある本をそろえ、子供たちは本の中を歩いたり、飛んだりしてほしい。
 河村健夫文科大臣殿、音読と朝の読書活動を必修にしてもらえないだろうか。

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