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 沖縄県石垣島沖の日本の領海内を中国海軍の潜水艦が航行しているのを確認し、大野防衛庁長官が「海上警備行動」を11月10日午前8時45分に発令しました。
 政府は12日午後中国の原子力潜水艦であると特定し、同日午後3時50分再びこの原潜が領海侵犯の恐れがないとして、大野防衛庁長官は海上警備行動終結を命じました。
 この事態を受けて、政府が国籍を特定する前の「海上警備行動発令中」である12日午前8時30分「国防・外交防衛・海洋権益特別委員会合同会議」が自民党本部で開催されました。多数の国会議員が出席し、多岐にわたる問題点を議論し対策を協議しました。

<海上保安庁、海上自衛隊の役割と海上警備行動>
 ところで、新聞報道やテレビニュースにも「海上警備行動」という用語がしばしば登場します。海上保安庁(以下『海保』)と海上自衛隊(以下『海自』)の役割の違いは、海保は海の「警察」だということです。
 海保は、泥棒(密猟船)を捕まえたり、職務質問(国籍不明船等に)をしたりします。警察官は強盗が反撃してきた場合、拳銃を使用するように海上保安庁も武器を使用します(海上保安庁法20条)。
 しかし相手が軍艦や潜水艦だったり、強力な武器を装備している不審船などの場合は、海上保安庁の装備では太刀打ちできません。そんな時は海上自衛隊の護衛艦や航空機、ヘリが出動し、わが国の安全を守ります。総理の承認を得て、海自が出動し対処するのが「海上警備行動(自衛隊法82条)」です。
 
<海上警備行動の種類>
海上警備行動の発令手続きは3種類あります。
(1) 今回のように潜水している潜水艦が領海を侵犯している場合であっても、国際法上すぐには攻撃できません(海洋法に関する国際連合条約20条、30条)。海自が下記のA、Bを行なうためには、防衛庁長官が総理に承認を求め承認により長官の発令する手続き必要です。この場合、海自ができることは次のA、Bだけです(平成8年12月24日閣議決定)。
  A 旗を掲げた上で海上面の航行することの要求
  B Aに応じない場合領海外への退去を要求
したがって、今回領海内で発令があったとしても上記A、Bの要求だけしかできませんでした。要求に応じない場合には、もう一度改めて下記の(2)(3)何れかの発令が必要となったのです。
(2) 上記のA、Bの要求に従わない場合や、海上を航行する軍艦等であって海保では対応できない場合は、防衛庁長官が総理大臣に(通常の海上警備行動の)承認を求め、閣議決定の後防衛庁長官に承認を与え長官が発令します。
この場合も直ちに撃沈できるわけではなく、厳格な要件が満たされないと武器使用はできません(自衛隊法95条)。
(3) 「総理大臣が必要と認める国防に関する重要事項」に該当する場合には、もっと複雑な手続きになります。
  [1] 防衛庁長官が総理大臣に承認求める → [2] 総理大臣が「安全保障会議」に諮問する → [3] 安全保障会議が答申する → [4] 内閣が閣議決定を行なう → [5] 総理大臣が承認する → [6] 防衛庁長官が海上警備行動を下命する
つまり、(2)の手続きに上の [2] と [3] が加わります。この場合も自衛隊法95条の適用があり、直ちに撃沈できるわけではありません。
 
<国防・外交防衛・海洋権益特別委員会合同会議の内容>
会議では、主な意見として次のような発言がありました。
1. 航空自衛隊のスクランブルのような手続について
2. 原子力潜水艦保有国へ当該原潜の所属確認について
3. スウェーデン海軍が行なったような爆雷投下について
4. 新たに「領海侵犯法」を設けることについて
5. 国内法整備と国際法との整合性について
 
<1.の意見に対する考え方>
 航空自衛隊(以下『空自』)のスクランブルと海上警備行動を比較した議論です。空自は領空侵犯の危険が生じたらすぐに出撃できるのに、なぜ、海自は総理の承認といった悠長な手続きなのか。迅速な手続きにできないのかということです。
 
(状況の変化に対応していない現行制度)
 確かに、空を守るのは空自だけですから、空自は海保と海自の両方の機能を備えていて、海保と同じく発令が不要ともいえます。また、空の場合、領空侵犯は即国際法上違反ですが、海上の場合は国際法で「無害通航権」が認められています。
 つまり、沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、一般船舶でも軍艦でも他国の領海内も通行できます(海洋法条約19条)。
 したがって、国際法上も許された権利なので、まず警察の機能を持つ海保が治安維持につとめ、戦闘の実力を有する海自は例外的であるべきとも考えられます。
 しかし、上の考えはもともと領海侵犯をした軍艦、潜水艦はそれ以上のことはしない。領海に入っても本土に向かってこないし、制海権を確保して次の作戦行動に出るようなことはしないとの「性善説」を前提にしているのではないでしょうか。
 近年の軍事技術の進歩は著しく艦船の速度、長距離からの攻撃力は一昔前とは比較になりません。また、わが国近海の状況は大きく変化しており、今までのような悠長な対応では間に合わないと考えます。
 
(結語)
 わが国の国民を守るため、また海底資源確保のためにわが国の領土、領海へ不法な侵入を絶対に許さないことは勿論です。そして、台湾と目と鼻の先の南西諸島の軍事的緊張の高まりの中、領海侵犯(領空侵犯もおなじ)があったときには、迅速かつ毅然とした態度をとることが、この地域の平和にとって不可欠です。
 毅然とした態度がかえって大きな紛争への芽をつむことになります。領海侵犯それに続く制海権の確保といったオプションを普段から行なわせないことが、次の重大なオペレーションを阻止する唯一の手段なのです。
 「国家の最も根源的な役割は国民の生命を守ること」を肝に銘じて、「海上警備行動」の手続の簡略化など、迅速で効果的な抑止行動がとれるシステム構築のための、見直しの議論が必要と考えます。

平成16年11月15日 山谷えり子

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