メッセージ(バックナンバー)

 「平和を願い真の国益を考え靖国参拝を支持する若手議員の会」(私が幹事長をつとめさせていただいている115名の議員連盟です)に櫻井よしこさんがいらして、良いお話をしてくださいました。
 その中で、柳田国男の「先祖の話」を引いてお話くださる場面がありました。“日本人は、死んだら終わりと考えず、魂となり、祖国にとどまり、生者のそばにいて見守っていてくださると考えていた”というくだりに、なつかしい柳田民俗学の香りがしました。実は私が35才で3番目の赤ちゃんをお腹にみごもった時、サンケイリビング新聞の編集長を引きうけることとなりました。どのような方向で編集しようかと悩んでいた時、尊敬する社長が柳田国男の「明治大正史世相篇」「女性と民間伝承」「妹の力」を読み返してみたらとアドバイスくださいました。
 うわっ面の変わりゆく現象の奥に、古くからのものの見方、感じ方がひそんでいる。新しい現象をどうとらえ編集していくか、水面上と水面の下を同時に見つめて編集していく視点を教えてくださったのです。大きなよりどころでした。
 今回櫻井さんのお話で、改めて柳田国男集を手にとり直しました。「妹の力」は、過去の精神文化のいろいろなところに日本女性の存在と力の大きさを見出しています。女性の宗教性、歴史、文化に果たした役割と力、またその霊力を感じとり、男性は畏怖を感じ、賢さと気高さを尊びました。そして尊ぶあまり時に忌み、またぶっきらぼうに応答してしまう慣習があったという、今につながるエピソードには、思わずニヤリとしてしまいます。
 「桃太郎の誕生」では優れた小子(ちいさこ)を神より賜って、それを大切に守り育てて下界の生活を美しくしようという希望が強かった国民性、子供の中に神を見て、子供を大切にする風習が、児童虐待の広がる世の中に光り輝いてみえます。日本は女性と子供を大切にした和らぎの 社会でした。
 昭和20年4月に戦後の混乱と読者を意識して書き始められたという「先祖の話」では、死んだ後も同じ国土を離れず、故郷の山々から子孫の生業を見守り、幸せと繁栄を祈りつづけてくださることを“限りなくなつかしいこと”とし、昭和24年に出された「魂のゆくえ」で、柳田国男はそれが誤った思想がどうかはこれからの人がきめてよいとし、“魂になってもなお生涯の地に留まるという想像は自分も日本人であるゆえか、私には至極楽しく感じられる”と記しています。
 なお今回読み返して、若い頃に読んでいたのに、全く気づかぬ視点がありました。
 それは何故これほどまでに民俗学にこだわったかということです。柳田は、東大で近代科学を学びながら、自然と日本人との関係、民間の神々との対話の中に昔からの日本的ありようを見出し、多くの示唆を与えられ、1909年明治42年32才で日本民俗学者として歩み出しますが、1919年45才で貴族院書記官長の職を辞してから、旅から旅をしながら民俗学の確立に孤軍奮闘します。そして昭和20年4月、戦後を意識して「先祖の話」を書きはじめ、8月11日近所に住む貴族院議員の長岡隆一郎からポツダム宣言受諾の聖断が下されたことを知り、その日の日記に「いよいよ働かねばならぬ世になりぬ」と記すのです。終戦後の世相の中で、日本人はどうなるか日本の神々、家々、人々はどうなるかという危機感の中で、70才代で民俗学研究所を設立し、最晩年は家族に対し「もう時間がない」と鬼気迫る憂国の情を話しつづけたといいます。
 卑俗な唯物論、ご都合便利主義、近代合理主義といわれるものの底の浅さの広がりに危機感をもっておられたことが論文のあちこちに感じられ、私は読み進めながら胸あつくなりました。
 「先祖の話」の序文に、柳田はこう書いています。「人が平静に物を考え得るようになるまでには、なお何年かの月日を待たなければならぬことはやむを得ないであろう。しかしいよいよこれから考えてみようという時になって、もうその考える材料ともいうべきものが、乏しくなっていたらどうであろうか。家の問題は自分の見るところ、死後の計画と関係し、また霊魂の観念とも深い交渉をもっていて、国ごとにそれぞれの常識の歴史がある。理論はこれから何とでも立てられるか知らぬが、民族の年久しい慣習を無視したのでは、よかれ悪しかれ多数の同胞を安んじて追随せしめることができない」と書いています。
 日本人は死後に祭ってもらいたいという念願をもち、力強い霊体として、自由に国、公、家のために力をつくし、私たちと語らい民族の縦の統一を保って後世子孫を守るという心、考えを柳田は“穏健な心掛け”とも感じていたようです。
 日本人と日本社会に共感と愛情をもち、民族の自然と調和しながらの社会のありようを願いつつ書かれた論文を読みながら、靖国の心を大切にする人々の気持と、果たして国立の追悼施設なる存在がどういう意味をもつのかを考えていく大切さを思っています。

平成17年11月1日 山谷えり子

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