2005年度活動報告

山谷えり子質疑 参議院少子高齢社会に関する調査会
平成17年4月6日(水曜日)
 
平成十七年四月六日(水曜日)
参考人
日本経済研究センター理事長 八代尚宏
神奈川大学経済学部教授   森泉陽子

- 山谷えり子君
 どうも参考人の皆様、ありがとうございました。
 八代先生にお伺いしたいんですけれども、八代先生の、少子化時代の家族の考え方、古い家族の保護から新しい家族への支援へ、家族選択に中立的な社会制度、男女間の非対称性是正、家族経営協定の促進等々を聞いておりまして、実は私はむしろ、とんでもなく古いマルクスやエンゲルスやレーニンの家族観のことを思ったわけでございます。家族軽視はマルクス主義の思想でございましたし、マルクスは主婦の全滅を訴えました。
 また、エンゲルスは、「家族・私有財産・国家の起源」の中で、近代的個別家族は妻の家内奴隷制の上に築かれているとか、あるいはまた、女性の解放は全女性が公的産業に就くことということで、母親であることよりも、一人の労働者として外に出していく、そして育児や家事などを外注化していくという、こういう政策をよしとしたわけでございます。
 レーニンは、一九一八年、ソビエトで最初の家族法を制定いたしまして、中絶や離婚の自由、同棲の権利などを保障しました。そのために、従来の家族制度が否定されたために、少年非行やシングルマザーが増えまして、社会不安が大きな問題となりまして、ついにスターリンは一九三四年に家族をむしろ強化する政策に転換して、レーニンの多様な家族観、あるいは家族を弱体化させるような政策は誤りであったというふうな政策にかじを切ったわけでございます。
 スウェーデンは今非嫡出子が多いんですが、少年非行が増えて、大変スウェーデンも悩んでいるというふうに聞いております。ヨーロッパでは、家族を保護しようと、尊重されるべきだというような話合いが行われておりますし、本当に母性、父性、家族を守ろうと。
 アメリカも、ブッシュ大統領が勝った最大の原因は家族政策の充実ということであったと。二番目が雇用政策で、三番目がイラク戦争だったわけでございまして、家族政策の充実というのが実はブッシュの勝因であったというような分析もあるわけで、むしろ今は、本当に母性、父性、そして家族の保護というふうに新しい家族観は動いているのではないかというふうに私は考えております。
 母性は育つものでございます。母性に否定的なイデオロギーによって母性は壊れてしまいます。社会は、母、母性を大切にするというメッセージを与えることでこそ少子化というのは止まり、家族の中で子供は豊かにはぐくまれていくのではないかというふうに考えております。
 家族経営協定なんというと本当に妻と夫が労働者関係になって、それは労働市場ではあることでしょうけれども、それはもう家族ではないわけでございますし、また、個人を経済単位とした精神的な結び付きというのが家族であるという、私はそうは考えておりませんで、その辺はもう少し詳しく八代先生に聞きたいんですが、家族というのはつながりの中で個人が豊かに強められるものであり、そして精神的というよりも、むしろ男と女が御縁をいただいて命を、つながりをつないでいくという、もっと違う重さ、意味を、意義を持つものだというふうに私は考えております。
 先日いらっしゃいましたノーベル平和賞をお取りになったケニアのマータイさんが、もったいないというのはすばらしい日本の言葉だと、世界に広めたいとおっしゃいました。私は、もったいないというのは、ただ食べ物を無駄にしないとか、あるいは物を無駄にしないという意味ではなくて、生かされていて、命の連続の中で有り難く、もったいなく自分の命を、そして次につないでいくというその大きな日本の心みたいな、それを強めるような政策をした方が、むしろ新しい家族の中で良き母性が育ち、父性が育ち、そして子供が育ち行くのではないかと思うんですが、その辺ちょっと、私の考えがどうなのかというようなことを意見をお伺いしたいと思います。
 それから森泉先生には、新しい親子世代に対応した住生活を送るための政策、税制の緩和、それから中古住宅市場の整備って、これとても大事なことだと思うんですけれども、今のこの現在の日本において、この政策を実現していくプロセス、最も能率的でどこをブレークスルーすればいいかというようなアドバイスがあればお教えいただきたいと思います。
- 参考人(八代尚宏君)
 どうもありがとうございました。
 ただ、私が言っていることは、決して理事が言っておられることとは矛盾しないわけで、私も家族を守る必要があるんだと。ただ、どの家族かというときに、必ずしも専業主婦型の家族だけというんじゃなくて、あらゆる家族に対して中立的な支援をする必要があるんじゃないかということでございます。
 これは、母性の問題、父性の問題は、別に共働きでも専業主婦世帯でも共通する点でありますし、子供を大事に思うような教育というのもひとしくやっぱりやる必要があるんじゃないかと。その意味では、過去の日本もある意味で自営業主体の社会でしたから、ほとんどが共働き世帯であったわけで、その意味では、夫婦がともに働くというのはむしろ日本古来の伝統であったわけで、ただ、高度成長期の日本では余りにも世帯主の賃金が、年々一〇%も増えたおかげで、先進国であれば一部のエリートサラリーマンしか持てない専業主婦をほとんどのサラリーマンが持てたという意味で、こちらの方がむしろ特殊な家族ではないだろうかというふうに考えております。
 それから、個人を経済単位とした精神的な結び付きでは不十分だとおっしゃるわけですけれども、それでは、今のように世帯主が被扶養者である奥さんを経済的に縛っていることで本当の家族の結び付きというのがあるんだろうかと。むしろ、そういう経済的な結び付きなしでも夫婦の仲のいい関係が維持されるという方がある意味で理想ではないだろうか。
 例えば厚生年金の分割の問題でも、一部の委員会では、そんな年金を分割したら離婚が増えるという反対論があったと思うんですが、その程度で増える離婚なら仕方ないんじゃないか、それは家庭内離婚が顕在化するだけであって、そういう年金があるかないかじゃなくて、本当に夫婦の結び付きが強いから一体となっているという方が、本来の精神的な結び付きに基づいた家族のあるべき姿ではないかというふうに考えているわけでございます。
 それから、理事のおっしゃっているような家族を決して私は否定するわけではないんで、あくまでもこれは選択なわけです。伝統的な家族を選択する方も、共働きの家族を選択する方も、自由に中立的な立場で選択できるようにするということが望ましいんじゃないかということで、むしろ現在の方がそういう被扶養者である専業主婦に対して手厚い政府の政策があるわけであるわけで、こういう形で専業主婦世帯を言わば無形文化財のような形で政府が保護する必要があるんだろうかどうか。専業主婦か共働きかというのは、家族が夫と妻の間で自由に決めればいいことで、政府が別に保護する必要はないんじゃないかと、どちらかの一方をですね。
 そういうふうに考えているので、この個人単位ということで、個人単位というのは誤解を受けたかもしれませんが、個人単位でなければいけないということではないわけで、個人単位とそういう世帯単位というのが中立的にある必要があるんじゃないかという意味でございます。
- 参考人(森泉陽子君)
 この新しい親子世代に対応した住生活を送るためにというのは、実は最後のパワーポイントのシートは私のペーパーのところからピックアップしたものなんですが、要するに、アクティブシニアというのを、ペーパーに書きましたけれども、これからの団塊世代は、シニアが今までのように子供に介護を頼むから、頼むよと言って一緒に同居したり、すぐそばに住んだり、そのために自分の財産を上げるというのではなくて、アクティブシニアが自分は自分の生活を完結すると、そういうことを私は新しい親子世代に対応した住生活というふうにここでは言っているわけなんですが。
 具体的には、その新しい親が子供にはもう頼らないと、自分たちは自分たちの生活で人生を終わろうとしているんで、例えば郊外の大きな家を持っていたのが都心に来て、便利な医療が、医療機関も一杯あるし、もうちょっとアメニティーも優れている都会に来て、マンション買って、ちょっと狭いけれども二人だけで住むマンションをしようと思っていても、そこでもしキャピタルゲインがあったら取られると、下がっていれば取られないわけですけれどもね、そういうことの税制の緩和というのを具体的に考えているわけです。
 特に介護施設などに入った場合には、せっかく、随分昔から持っている、例えば都心に住んでいて昔から持っている住宅というのはかなりキャピタルゲインが生じてくるわけですね。だから、それは単純に買換え以上の分が出ると。それから、施設に入ったりした場合には、住宅としてみなされるかどうかということですね。だから、そういう場合に、アメリカの場合はどんな年齢でもって申し上げましたけれども、どんな年齢でもその買換えに対しては税が付かないというそういう状況になっておるので、非常にそのモビリティーを高めているということがあるわけです。
 ですから、親がそういう新しい親ですから、子供も、先ほど申し上げましたように中古住宅からしこしこしこと進んでいこうと思っているにもかかわらず、地価が上がってくれば中古から次のちょっとした中古へって移ったときには、税金を取られて、まあ三千万の控除ありますけれども、それ以上出てきた場合には取られてしまうと、そういうようなことになるわけで、それを税制の緩和ということを具体的には申し上げているわけです。

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