メッセージ(バックナンバー)
 皇后さまのおことばや御歌は、祈りの心に満ちていますが、このたび竹本忠雄さんという長くフランスにいらして、アンドレマルローの翻訳などでも有名な方が、皇后さまの御歌を2年前フランスで出版。
 シラク前大統領をはじめ感動の波はアフリカまで広がり、多くの知識人をゆさぶった本の、日本語版が出されました。
 「皇后宮美智子さま 祈りの御歌」(扶桑社)その出版記念会に出席いたしました。
皇后さまの御歌
あづかれる 宝にも似て あるときは 吾子(わこ)ながらかひな 畏(おそ)れつつ抱(いだ)く 《浩宮様誕生の時に》
幾光年 太古の光 いまさして 地球は春を ととのふる大地 《昭和44年歌会始》
バーミアンの 月ほのあかく 石仏(せきぶつ)は 御貌削(みかおそ)削がれて 立ち給ひけり 《昭和46年アフガニスタンの旅にて》
 私はフランス語は、あまり出来ないのですが、当日、村松英子さんが日本語で、竹本さんがフランス語で読まれる音だけをじっと目をつぶって聞いていると、一瞬と永遠、ここと宇宙の彼方を往来するような不思議な感覚につつまれました。
 当日会場で、とくに村松英子さんが朗詠されたのは浩宮さま(現皇太子殿下)の「加冠の儀(成人式)」を詠まれた長歌です。

いのち得て かの如月の 夕(ゆふべ)しも この世に生(あ)れし みどりごの 二十年(はたとせ)を経て 今ここに 初(うひ)に冠(かうぶ)る
浅黄(あさぎ)なる 童(わらは)の服に 童かむる 空頂黒ゥ(くうちゃうこくさく) そのかざし 解き放たれて 新(あら)たなる 黒き冠(かがふり)
頂(いただき)に しかとし置かれ 白き懸緒(かけを) かむりを降(くだ)り
若き頬伝ひつたひて 顎(あぎと)の下 堅く結ばれ
その白き 懸緒(かけを)の余(あまり) 音さやに さやに断たれぬ
はたとせを 過ぎし日となし 幼日(をさなび)を 過去とは為(な)して 心ただに 清らに明(あ)かく この日より たどり歩(あゆ)まむ
御祖(みおや)みな 歩み給ひし 真直(ますぐ)なる 大きなる道
成年の 皇子(みこ)とし生くる この道に今し 立たす吾子(わこ)はや

 はたとせを過ぎし日となし、幼日を過去とは為して…御祖みな歩み給ひし真直なる大きなる道
 何という雄大で厳しい覚悟にみちた風景を詠まれたことでしょう。
 涙が出そうになりました。皇紀2668年今日まで続く日本の歩みを今日も明日もこれから先もずっとずっとお歩み下さる美しく静かで確かなご皇室の愛と祈りに会場はあたたかで清い空気に包まれました。
 
 皇后さまは、私の学校の先輩でいらっしゃいます。
 先日、父の日の前日に同窓会の北陸ブロックで集まりがあった時、こんな話を先輩がして下さいました。
 「目に見えないものを大切にと、皇后さまはよくおっしゃられたわねぇ。たとえば明日は父の日。疲れ果てて家でゴロゴロしているお父さんは事実かもしれないけれど、真実とはいえない。お父さんの真実の姿は、世のため人のため懸命に働き、家族を深く愛し、守りぬこうとしている―それが真実の姿であっても、家にいるゴロゴロ姿からはそれが見えないこともある。だから妻は、子供たちに“見えないけれど、真実の姿を子供たちに伝えていただけたら。そんな役目があるのではないかしら”と皇后さま、おっしゃられた。覚えている?」
 先輩の言葉に皆、うんうんうなずき合ったものでした。
 
 ところで、今月号の月刊文藝春秋には、「橋をかける 子供時代の読書の思い出 皇后美智子さま」(すえもりブックス)という皇后さまが1998年国際児童図書評議会の世界大会に向けてお話なさったスピーチを編集された末盛千枝子さんが、皇后さまの子供たちへの愛と読書への思いを記しておられます。
 「橋をかける」の本の中には皇后さまが新美南吉の「でんでん虫のかなしみ」の話に言及されて「でんでん虫は、ある日突然、自分の背中の殻に、悲しみが一杯つまっていることに気付き、友達を訪ね、もう生きていけないのではないか、と自分の背負っている不幸を話します。
 友達のでんでん虫は、それはあなただけではない、私の背中の殻にも、悲しみは一杯つまっている、と答えます。
 小さなでんでん虫は、別の友達、又別の友達と訪ねていき、同じことを話すのですが、どの友達からも返って来る答えは同じでした。
 そして、でんでん虫はやっと、悲しみは誰でも持っているのだ、ということに気付きます。
 自分だけではないのだ。私は、私の悲しみをこらえていかなければならない。
 この話は、このでんでん虫が、もうなげくのをやめたところで終っています」という一節を記されていたり、また皇后さまが疎開中の小学生の頃に読まれた倭建御子(やまとたけるのみこ)と弟橘比売命(おとたちばなひめのみこと)のお話―倭建御子が窮地に立たされ、皇子を救うべく、后の弟橘比売命が海神の怒りを鎮めるために、感謝と愛の思いを胸にいけにえとして自ら入水して皇子の任務を全うさせるお話について、皇后さまが「『いけにえ』という酷い運命を、進んで自ら受け入れながら、恐らくはこれまでの人生で、最も愛と感謝に満たされた瞬間の思い出を歌っていることに、感銘という以上に、強い衝撃を受けました。
 『はっきりとした言葉にならないまでも、愛と犠牲という二つのものが、私の中で最も近いものとして、むしろ一つのものとして感じられた、不思議な経験であったと思います」と語られておられる一文もあります。
 とても美しい内容の本で、私はたびたび繰り返して読んで、皇后さまの生きることの覚悟や子供たちへの愛情の深さと祈りの心に教えられ胸がいっぱいになるのです。
 
 7月7日からはサミットが始まります。官邸の留守番チームは、北海道に思いをはせつつ働いています。

平成20年7月4日 山谷えり子

<< 前のメッセージへ 次のメッセージへ >>

山谷えり子事務所
〒100-8962 東京都千代田区永田町2-1-1 参議院議員会館611号室
TEL:03-3508-8611/FAX:03-5512-2611