メッセージ(バックナンバー)

 講演で地方に行った時、「私のことを覚えていますか」と、女子高生に言われました。彼女は、つづけて「十年前、東京にいた時、よくお家に遊びにいかせてもらいました。私、その頃帰国子女で友達もいなくて、勉強もわからずに心細かったんです。だから宿題を一緒にするのが楽しみでした。親切にしてもらいました」と、言いました。
 十年前…末娘のお友だち…と記憶の糸をたどって、思いあたりました。
 女の子は十年もすると、とても変わります。美しく成長したその姿を嬉しく思い、帰宅後末娘に報告しました。末娘は、なつかしそうな表情をしながらも「私、親切にしたなんて思っていないし、彼女が心細い事も知らなかった。ただ一緒に遊んでいただけ…」と、言いました。そう、そうかもしれません。
 実は最近こんなことがありました。四十年ぶりに故郷の先輩にバッタリお会いしたのです。当時、私の育った町では、夏休みの終わる頃、大きなお家やお寺などに集まって、先輩が後輩を教えたり、仲間同士で教え合って宿題を片づけたものでした。その先輩には、よくしていただきましたので、「あの頃はご親切に…」とお礼を言ったのですが、その先輩は、とんとそんなことは少しも覚えておられないのでした。
 親切をしたほうは少しも親切をしたとは思っていない。でも、親切にされたほうは、大切な思い出として胸に抱きつづけているということは、何とステキなことでしょう。
 「受けたご恩は石に刻み、かけた情けは水に流せ」とは、祖母がよく言っていた言葉でした。
 春、出会いの季節です。どんなご縁が結ばれるのでしょうか。

平成17年4月5日 山谷えり子

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