メッセージ(バックナンバー)

 出生率が1.29。東京都は0.99と1.0を割り込みました。
 毎日のように、いえ1日に2〜3度も少子化問題で講演をしています。少子化対策として保育所整備や育児休業制度など、それなりにとられていますが出生率は下がる一方です。
 「私の住んでいるこのふるさとが大好き」という人々の多い県が出生率が高いというデータがあります。「子育ては、時間とお金がかかる」とか「個人の自己決定」という意識が現代社会ではふつうのことのようになってしまっていますが、私は子供を授かれるものなら、授かりたいという願いが結婚の時にありました。というのは、家族や先生あるいは日本の文化や自然、すばらしいものをたくさんいただきながら生かされてきたにもかかわらず、恩返しができていない。そこでもしも母親になれるなら、子育てをするということで恩返しの少しでも出来るかしらんという気持ちがあったように思います。
 
 男と女がご縁をいただき、生命を授かれる場合は生命をつないでいくのが結婚であり、家族の神聖な意義、有難くもったいないところです。
 ところが、この春から使われている高校の教科書では「祖母は孫を家族と考えていても、孫は祖母を家族と考えない場合もあるだろう。犬や猫のペットを大切な家族の一員と考える人もある」と書かれていたりこれまで使用されてきた別の教科書には「日本は欧米先進国と比較しても離婚率はあまり高くはない。では日本の夫婦関係は良好かといえばそうともいえない。離婚後の経済事情を考えれば、結婚生活をつづけざるをえないケースなどもあるからである」とあったりします。少子化問題では、生命がつながってきた尊さや喜び、献身という生き方の輝き(私の両親は、私が母親になった時“これで権利が1/10、義務が10倍。それが親になることの醍醐味、子育てはリハーサルなしのぶっつけ本番、思いどおりいかなことの連続。そのことを楽しめ”と面白そうに、そしてちょっとからかうように励ましてくれましたっけ)という価値観や感じる心を教育の場や家庭で育てていくことが大切なことであるという気がします。
 
 昨年、夫が交通事故で亡くなった時、長女は「体が死んだぐらいでなによ。魂はつながっているんだもん。これからお父さんの喜ぶことをみんなしていこう。いい子を産んで育てることだよ」と、弟と妹に言いました。
 長男は「褒めてくれる人がいない人生なんて無意味に思えた。でもそうじゃない。これからは父さんのまねをして、家庭人、社会人をやっていけばいいんだ。母さん、愛は深まるばかりだね」と言いました。
 末娘は「十七歳で別れるなんてひどすぎる。でも私は、何十年分もかわいがってもらった。だから父さん、私幸せになるからね」と亡くなろうとする父親に向かって言いました。
 夫が亡くなったあと、八十歳の姑は「感謝ね」と言いました。長男は、聞違いなのか、何だろうと思って「えっ?」と聞き返しました。すると姑は「息子はいい父親やってるとは思っていたけれども、これほどまでに慕われているとは思わなかった。そして息子はこれからも孫たちの父親として生き続けていくというのが、よくわかったから感謝だ」と言うんです。
 生命の恵みが共感をもって迎えられる自然、ふるさと、場づくり、人づくりが今の時代にあって、必要なのではないでしょうか。

平成16年6月14日 山谷えり子

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